風車
風車戦法は、ツノ銀中飛車をルーツに、飛車を下段へ引いて左右へ転回し、相手の動きに応じて陣形全体で受ける持久戦型の振り飛車です。伊藤果八段が居飛車穴熊への対策として考案・愛用したことで知られています。
中飛車ページでは中飛車全体、ゴキゲン中飛車では攻撃型中飛車、ツノ銀中飛車では二枚銀による中央の厚みを扱っています。このページでは、風車固有の低い飛車、左右への転回、中住まい、待機とカウンター、居飛車穴熊への考え方に絞って解説します。
風車は長く専門的な戦法として扱われてきましたが、近年はAI時代のバランス感覚との共通点も注目され、伊藤果八段は第53回(2025年度)将棋大賞で風車により升田幸三賞を受賞しました。
目次
風車戦法の特徴
| 戦法のタイプ | 振り飛車・中飛車派生/待機・カウンター型 |
| 攻撃性 | ★ |
| 仕掛けの早さ | ★ |
| 覚えやすさ | ★★ |
| 定跡量 | ★★ |
| 汎用性 | ★★ |
※評価は当サイト独自の目安です。
風車戦法はこんな人におすすめ
- 自分から無理に仕掛けず、相手の攻めを見て反撃したい
- 飛車を左右へ転回する柔軟な将棋が好き
- 玉の堅さより、広さと陣形全体のバランスを重視したい
- 居飛車穴熊に正面から堅さ勝負をしない戦い方を学びたい
風車戦法とは
| 9 | 8 | 7 | 6 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 | |||
| 一 | ▲ | ||||||||||
| 二 | 先手 | ||||||||||
| 三 | |||||||||||
| 四 | |||||||||||
| 五 | |||||||||||
| 六 | |||||||||||
| 七 | |||||||||||
| 後手 | 八 | ||||||||||
| ▽ | 九 |
風車の基本形
| 9 | 8 | 7 | 6 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 | |||
| 一 | ▲ | ||||||||||
| 二 | 先手 | ||||||||||
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| 四 | |||||||||||
| 五 | |||||||||||
| 六 | |||||||||||
| 七 | |||||||||||
| 後手 | 八 | ||||||||||
| ▽ | 九 |
風車の基本形2
風車戦法では、飛車を5筋へ振ったあと下段まで引き、相手の攻める場所に応じて1筋側から9筋側まで横へ動かします。
特定の筋から一直線に攻めるのではなく、相手の駒が偏った場所とは別の筋へ飛車を回す、攻められた場所へ飛車を寄せて受けるなど、飛車の横移動を最大限に生かすのが特徴です。
玉も穴熊や美濃囲いへ深く固めるのではなく、中住まいに近い位置を含めて状況に応じて移動します。風車では「囲いを完成させてから戦う」というより、盤面全体の駒を働かせながら安全を保ちます。
中飛車・ゴキゲン中飛車・ツノ銀中飛車との違い
| 戦法 | 主な役割・特徴 |
|---|---|
| 中飛車 | 飛車を5筋へ振る戦法全体。種類・基本・囲い・対策を横断して解説 |
| ゴキゲン中飛車 | 角道を開け、5筋の位を取って自分から主導権を狙う攻撃型 |
| ツノ銀中飛車 | 二枚銀で中央を厚くし、居飛車急戦を受け止めるバランス型 |
| 風車 | 飛車を下段へ引き、左右へ転回しながら待機・受け・カウンターを狙う流動型 |
風車はツノ銀中飛車と似た駒組みから始まりますが、完成形は同じではありません。最大の違いは、飛車を低く引いて横へ自由に動かし、玉を含めた陣形全体を固定しすぎない点です。
風車とツノ銀中飛車の関係
風車の原型はツノ銀中飛車です。左右の銀を中央付近へ置き、金銀を分散させてバランスを取る考え方を受け継いでいます。
ただしツノ銀中飛車では中央で相手の急戦を受けることが中心なのに対し、風車では飛車を最下段近くへ引き、相手の動きに応じて攻防の場所そのものを変えます。
そのため、風車は「ツノ銀中飛車の一形態」というだけでなく、飛車・玉・金銀を流動的に使う独自の戦法として考えた方が理解しやすくなります。
飛車を下段へ引く狙い
左右どちらへも転回できる
飛車を下段へ引くと、歩や金銀に進路を遮られにくくなり、横方向へ大きく移動できます。
相手が2筋側へ駒を集めれば反対側へ回る、中央が薄くなれば再び5筋へ戻るなど、相手の配置を見て攻撃地点を変更できるのが風車の名前どおりの特徴です。
受けにも飛車を使える
低い位置の飛車は攻撃だけでなく、自陣へ侵入しようとする相手の飛車や歩を受ける役割も持ちます。
一方向だけを守るのではなく、必要な場所へ飛車そのものを移動させて守る発想が風車らしい指し方です。
中住まいと玉の広さ
風車では、玉を美濃囲いや穴熊へ深く固定せず、中央寄りの位置を保つことがあります。
一見すると玉が薄く見えますが、金銀が左右に配置され、相手の攻める方向に応じて玉自身も移動できるため、逃げ道を広く確保しやすいのが特徴です。
ただし玉が中央にいるため、大駒交換が起きると王手がかかりやすくなる局面もあります。「広いから安全」と考えず、相手の飛車・角の利きを常に確認する必要があります。
風車が居飛車穴熊対策として生まれた理由
風車は伊藤果八段が居飛車穴熊への対抗策として考案した戦法です。
振り飛車側が美濃囲いを固めても、居飛車穴熊の方がさらに堅くなれば、正面からの攻め合いでは玉の堅さで差がつきやすくなります。
そこで風車では、穴熊以上に堅く囲おうとせず、玉の広さ・全体のバランス・飛車の転回で対抗します。相手が攻めてこなければ無理に局面を動かさず、攻めてきた場所を受けて別の場所から反撃するのが基本思想です。
風車の基本的な戦い方
自分から無理に仕掛けない
風車は、攻撃の形を作ってすぐ仕掛ける戦法ではありません。
相手が攻める場所を決めるまで待ち、駒が偏ったところで受ける、あるいは反対側から反撃するのが基本です。局面によっては千日手も含め、無理に戦いを起こさない選択ができます。
相手の攻め駒を前へ出させる
相手が穴熊の堅さを背景に攻め駒を前へ出してきたら、その攻めを受け止めたあとが風車側の反撃機会です。
相手陣から離れた駒が戻るまでには手数がかかるため、飛車を別の筋へ回して薄くなった場所を狙います。
風車のメリット
相手の作戦に合わせて形を変えやすい
飛車・玉・金銀の位置を固定しすぎないため、相手が狙う場所に応じて陣形を調整できます。
玉の逃げ道を作りやすい
穴熊のように玉を隅へ閉じ込めないため、終盤に上部や反対側へ逃げるルートを残しやすくなります。
相手の研究を外しやすい
ゴキゲン中飛車のような主要定跡とは局面の性格が大きく異なるため、相手を通常の対振り飛車定跡から外しやすい面があります。
風車のデメリット・注意点
自分から攻める目標を作りにくい
相手の動きを待つ戦法なので、相手も無理に攻めてこなければ局面を進めにくくなります。
優勢を取りにいく明確な仕掛けが見つからず、手待ちの質や千日手を含む判断が必要になることがあります。
玉が堅いわけではない
風車は陣形全体のバランスを重視するため、穴熊や美濃囲いのように金銀を玉の周囲へ集中させません。
大駒を自陣へ打ち込まれたり、一方向から数の攻めを受けたりすると一気に崩れることもあるため、相手の攻め筋を早めに察知する必要があります。
指し手の自由度が高く、判断が難しい
決まった攻撃手順が少ないため、「飛車をどこへ回すか」「玉をどこへ逃がすか」「いつ局面を動かすか」を自分で判断する場面が多くなります。
AI時代に風車が再評価された理由
風車は長く伊藤果八段を代表する個性的な戦法として知られてきましたが、近年は将棋AIが中住まい・低い飛車・左右へ開いた金など、風車に近い形を評価する局面が見られるようになりました。
こうした現代将棋との接点も注目され、伊藤果八段は第53回(2025年度)将棋大賞で升田幸三賞を受賞しています。
ただし、AIが指すバランス型と風車の思想が完全に同じという意味ではありません。形の一部に共通点があり、数十年前の発想が現代的な視点から再び注目されたと考えるのが適切です。
風車は現在でも使える?
現在でも指すことはできます。2026年に升田幸三賞を受賞したことで、歴史的な戦法としてだけでなく、独自のバランス感覚を持つ戦法として改めて注目されています。
一方、プロ棋戦の主流戦法というわけではなく、ゴキゲン中飛車のように大量の定跡が整備された戦法とも性格が異なります。
定跡暗記よりも、相手の駒の偏りを見る、飛車を柔軟に転回する、玉の逃げ道を確保するといった局面判断を重視したい人向けの戦法です。
風車は初心者におすすめ?
将棋を始めたばかりの初心者には、やや難しい戦法です。
ゴキゲン中飛車のように「5筋から攻める」という明確な目標が少なく、相手の指し手に合わせて自分の駒を動かす必要があるためです。
中飛車・ツノ銀中飛車の基本を理解したあと、次の3点から覚えると風車の考え方をつかみやすくなります。
- 飛車を下段へ引き、横へ自由に動かせる状態を作る
- 相手が攻めるまで陣形を崩しすぎない
- 相手の駒が偏ったら、飛車を別の筋へ回して反撃する
居飛車側の風車対策
一方向へ駒を寄せすぎない
風車は相手の駒が偏った場所とは反対側へ飛車を転回するのが得意です。
居飛車側は攻撃駒を一筋へ集めすぎず、飛車を回されたときに反対側も守れる形を残します。
無理に攻めてカウンターを与えない
風車側は相手が動いたあとに反撃する展開を得意とします。
穴熊に囲ったからといってすぐ攻め込まず、駒得や位など小さな優位を広げながら、風車側に分かりやすい反撃地点を与えないことが重要です。
風車戦法についてよくある質問
風車戦法は中飛車ですか?
中飛車・ツノ銀中飛車をルーツとする振り飛車戦法です。ただし飛車を5筋に固定せず、下段から左右へ転回するため、通常の中飛車とは戦い方が大きく異なります。
なぜ「風車」という名前なのですか?
下段へ引いた飛車を相手の動きに応じて左右へ何度も転回させる様子から、風車と呼ばれます。
風車とツノ銀中飛車の違いは?
ツノ銀中飛車は二枚銀で中央を厚くして急戦を受ける戦法です。風車はその形をルーツとしつつ、飛車を下段へ引き、玉や金銀も固定せず流動的に使います。
風車は千日手を狙う戦法ですか?
千日手だけを目的とする戦法ではありませんが、無理に攻めず、相手が動かなければ手待ちを続ける思想があります。状況によって千日手を受け入れられることも、風車の待機型という性格の一部です。
風車はなぜ2026年に注目されたのですか?
考案者の伊藤果八段が、第53回(2025年度)将棋大賞で風車により升田幸三賞を受賞したためです。AI時代に風車と似たバランス型の形が現れることもあり、独自の発想が改めて評価されました。
まとめ
風車戦法は、飛車を下段へ引いて左右へ転回し、相手の動きに応じて受けと反撃を切り替える独特の振り飛車です。
- ツノ銀中飛車をルーツとする持久戦型の戦法
- 低い飛車を左右へ転回させるのが最大の特徴
- 穴熊より玉の広さ・全体のバランスを重視する
- 自分から無理に仕掛けず、相手の攻めへのカウンターを狙う
- 2025年度将棋大賞で伊藤果八段が風車により升田幸三賞を受賞
風車戦法をさらに学ぶには
伊藤果八段の著書『伊藤果直伝! 風車の美学』は、風車の思想・駒組み・居飛車穴熊への考え方を体系化した代表的な資料です。現在は絶版ですが、2026年の升田幸三賞受賞を機に、将棋情報局で内容の一部が加筆・再公開されています。
中飛車全体の歴史やツノ銀中飛車との関係を学びたい場合は、中飛車、ツノ銀中飛車もあわせて確認すると理解しやすくなります。
